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それは そこに浮かぶ なにか 

short story

※記事・画像の転載・流用はご遠慮願います。

福猫




福猫


……
……えーっと
……どうしよう……

大学からの帰り道
しとしとと冷たい雨が降る中
俺は目の前の光景にしばし呆然とし
そして固まっていた

目の前にはダンボール箱に入れられた
真っ黒な仔猫が一匹
みゃーみゃーと不安げに鳴いている


ふと、何故だか今日は
いつもと違う道を歩いて帰ろうと思ったのだ

それは歩道の植え込みの
ぽっかりと空いた部分に置いてあった

……見つけてしまった

見つけて焦った
親猫が何処かにいるかもしれないと思ったのだが
【拾ってください】と
箱に書かれた子供の文字

うわぁと思わず天を仰ぐ
見えたのは空ではなく傘だけど

俺はその場にしゃがみ込み
傘の中にその仔猫を入れてやった
(さて、どうする?)
ぐるぐる考え込んでいると
後ろから声をかけられた


「あの……大丈夫ですか?」


振り返ると女の子が立っていて
心配そうにこちらを見ている

「あ、大丈夫です。すみません」
(大丈夫じゃないけど)と答えると
「どうしたのですか?」と女の子が聞いてくる


「あっ……と……仔猫が捨てられていて……
飼えればいいのだけど、アパートはペット禁止なんで……
それで途方に暮れてしまって……」

しどろもどろに答えていると
首を傾げた女の子がひょいと覗いてきた

「あ~なるほど。えっと……ちょっと待ってください」

その子はおもむろに携帯電話を取り出し
どこかへ電話をかけた

「あ、お父さん?
今ね仔猫が捨てられているのを見つけちゃって。
診てもらえるかな?」

どうやら親と連絡を取っているようだ

「は~い。じゃ、連れて帰るね」

そう言って電話を切ると
にっこりと笑って仔猫を抱き上げる

「うち動物病院をしているんです。
とりあえず連れて帰って、診察をしますね」

その子が仔猫を撫でながら色々と説明をしてくれた
どうやら保護活動に積極的な病院らしい


はーっと俺は安堵の溜息をつく

「よかった。助かったよ。ありがとう」

「いいえ~放っておけないですし……あ、仔猫ですよ」

「ははは」
俺は脱力した笑顔を返した

「じゃ、急いで父に診察してもらいますね」

「あ、診察代……」と言い終える前に
女の子は足早に行ってしまった

話すテンポが小気味良い可愛い子だった
ここで映画や小説ならば
連絡先などのやり取りをして先が続くのだろうけど
さすがにそんなに上手くはいかないな……

でも、仔猫が安全な場所へ行けて良かったと
ふたたび安堵の溜息をつき
部屋へと帰った




今日は朝から雨が降っている
夕方には止んでくれるかなと期待したが
帰る時間になっても降り続いていた

やれやれと傘を差し
帰り道を歩きながら
あの日の事を思い出していた

あれからふた月は経ったかな……
あの仔猫はどうしているだろうか……

ふと、またあの道を通ってみようと踵を返し
その場所へ向かって歩き出す

(あれ? あそこだったよな)

仔猫がいた所に
あの時の女の子が立っていて
「あ、すごい。会えた~!」と
にっこり笑ってそう言った

俺は突然の出来事にびっくりして
「……なんでここに?」と女の子に尋ねた

「連絡先を聞いていなかったから……
ここで待っていたら会えるかな?と思って」

「え、ずっと待っていたの?」

「いいえ~雨の日でないとわからないから……
しかも今日から待ってみようって思ったところで。
そうしたらすぐに会えたので、びっくりしました」

「雨の日でないとわからないって?」

「えっと……ごめんなさい!!
あの……
その青い傘しかはっきりと覚えていなかったので……」

「傘……」

俺は思わず笑ってしまい
彼女もつられて笑い出した

「あの仔猫。結局うちで飼う事になったんです。
一回里親さんが見つかったけど
先住猫と合わなかったらしく戻ってきて。
うちにいた猫や犬たちとはすぐに仲良くなったので
もう、そのままでいいかって
何より父に懐いちゃって。父も嬉しそうだし」

「そうなんだ。いや、本当にありがとう」

「本当にラッキーな仔猫ですよ。
捨てられてすぐに見つけてもらえたみたいで
そんなに弱っていなかったんです」

「そして君が現れて助けてくれたと」

「検査結果も良好で。ね。ラッキーですよね」

「確かに」

にこやかに会話は弾み
今度はちゃんと連絡先も交換してお互い帰路についた
やった!と俺は喜んだ



部屋に着いて……しばらくした頃携帯電話が鳴った
あの子からのメールだ

写真が添付されていたので開いてみる

三匹の猫と一匹の犬と共に写った
元気そうな仔猫の写真だった

(……日曜日誘ってみようかな)
ダメ元でお礼を兼ねたメールを返信する



そわそわしながら
仔猫たちの写真を待ち受けに設定していたとき
(これで俺も猫バカだ)
あの子から返事が来た

その文面を読み
「俺も楽しみにしています」と独りごちる


ふた月前も今日も。
何かに誘われるようにあの道を通った
そういえば昔は黒猫のことを福猫と呼んでいたらしい

「おまえは本当に福猫なのかもしれないな」

画面の仔猫に向かってそう言うと
みゃーと鳴き声が聞こえた気がした








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First Snow




雪



仕事を終えた帰り道

(今日はやけに冷え込むな……)

肌を突き刺すような寒さの中
頬に冷たい雫が落ちてきた
……雨かなと空を見上げる

「あ、雪だ」

今年初めての雪……と言うよりは
僕が住む街にはほとんど雪が降らない

何年ぶりかの雪

いい年にもなって
いまだに雪が降るとわくわくする

こんな僕を
君は「子供みたい」と笑うだろうか


胸ポケットから音が鳴る
携帯電話を取り出すと
君からのメール
その文面を見て僕は笑った
それはたった一言だけ

「雪!!」

どうやら君も僕と同じみたいだ
僕はメールに返信をする

「帰ったら雪見酒でもするか?」

そう送信するとすぐさま音が鳴る

「いいね! 乾杯しよう!」


君のあまりの返事の早さに
僕はまた笑ってしまった

周囲の人の訝しげな視線を感じ
慌ててその場から歩き出す



食料品店に寄って酒を選ぶ
ビールかワインか……

滅多にない事だから
ちょっと洒落てシャンパンにしよう

あとはチーズと生ハムも買って帰ろう
バケットもいるかな
あぁ、サーモンもいいな……

あれこれ手に取ってはカゴに放り込む

みるみるカゴは一杯になっていき
店を出る時には
大きな紙袋を抱えていた


いつもと変わらない一日のはずが

雪が降った

君との共通点を見つけた

たったそれだけで
帰る足取りが軽くなる


このまま積もったら
明日の通勤は大変だろうけれど


たまにはこんな日があってもいい






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heavenly blue




heavenly blue



「必ずここに戻ってこよう」

国を発つ時、親友のあいつと約束をした
生まれた町を見渡せる小高い丘で
共に見上げた空は限りなく自由だった



記者として、俺はここに立っている
兵士として、あいつはここで戦っている

ここは戦場 異国の街
崩れ落ちた壁 瓦礫の山

罪の無い逃げ惑う人々
……そして亡骸


戦争というものは
いとも簡単に人の命を終わらせる


戦争を始めたお偉いさんは
安全な部屋から出ようとはしない

軍人以外に駆り出される者は
戦う意味を見いだせない若者や
守る家族がいる父親たち

何かがおかしいと思いながらも
自分を騙して戦っている

国に心酔している者もいるが
それは、ごく一部だろう

多くの者たちが次第に心を病んでいく

記者として真実を伝えたいが
正確に伝わるかはお偉いさん次第だ
検閲に引っかかれば歪曲される

ここに正義があるはずもない



あいつがいる部隊に同行できたのは
唯一の幸いか

一日の終わりに
お互いが無事に生き延びた事を確認する
あいつは力なく笑う
一時の安堵

夜明けが来るまで、形だけの休息を取る
それを幾夜も繰り返す



その日、部隊は一旦拠点へと戻ることになった
移動中にあいつと目が合い
お互いが笑みを浮かべた

その時

何処からか耳を劈く銃の音
あいつが崩れ落ちていく

何が起こったのかを把握する前に
目の前の景色が歪み
次に映ったのは空だった
俺は仰向けに転がっていた

背中を生暖かい液体が
音を立てるように流れていく

あいつの名前を呼んでみたが
返事は返ってこなかった


……本当に、簡単に終わらせてくれるよな


俺は一つ苦笑を漏らし、空を見る
震える指でシャッターを切った


果たせなかった約束は
遠い異国の地に眠る


空はどこまでも青かった






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星と君と




星と君と



「ね。星を見に行こうよ」

「えっ? 今から?」

「そ。今から」
 満面の笑みで君が言った

 僕は仕事帰り
 いつものように君の部屋へ寄って
 やっと一息ついたところだった

「かなわないなぁ」
ボソリとつぶやいたけれど、君はお構いなしで

「明日休みでしょ? 今日は月明かりもないし最高よ」

 そう言うと、君はキッチンへ行き
 手際よく、パンにチーズとハム、レタスを挟んでバスケットに詰め
ポットに入れるコーヒーをドリップしている

「コーヒー今飲みたいよ」と僕が言うと
仕方ないわねぇという感じで小振りのカップに注いでくれた
 
それから君は忙しくブランケットやらランタンやら集めている
 僕はそれを眺めながらコーヒーを飲んでいた

 
「よし出来た。さぁ行きましょう」と君はにっこり微笑む
 やれやれ
  こういう時の行動力はすごいな


 車の後部座席にブランケットなどを置き
 君はバスケットを大事そうに膝の上にのせて
 「夜のピクニックね」と楽しそうだ
 

 街に住んでるとはいえ、車で1時間も走れば山の麓まで着く
 峠を登り、開けている所にある小さな展望台に車を止めた 
 
 車を降りて空を仰ぐと、一面の星、星、星

 丁度良くベンチがあったので
 僕らはそこに腰を下ろし星を眺めた

夜空を眺めるのなんて久しぶりだなぁ」
「今は秋の星座ね。あれがペガススかな」

 君が指で星を辿る先に四辺形に並ぶ星

「星に詳しかったっけ?」
「小さい頃好きだったのよ」

 まだ僕が知らないことがあるんだな


 燈もない静寂の中
 僕らは降ってくるような星を眺めていた
 

 どのくらい時間が経ったのだろう
「食べましょうか」と
君はこれまた手際よくランタンを付けて
 バスケットを開き、ポットのコーヒーをカップに注いだ
 
 かなり躰が冷えていたのを
 温かいカップが気づかせてくれた
 
「たまにはいいでしょう? 星を眺めるのも」
 ふいに君が言う

落ち込んでいても心が落ち着くのよね」
 そう言うと、君は目を伏せカップのコーヒーを見つめた


 今日、僕は仕事でミスをしてかなり落ち込んでいた。
 君の前では普通にしていたつもりだったのだけど・・・
 確かに星を眺めていたら、落ち込んでいた事を忘れていた

「よく僕が落ち込んでいるのがわかったね」

「…
長い付き合いだもの」と
君はやさしく笑ってそう言った 
 
「…
ありがとう」
  僕はカップに視線を落としコーヒーを飲み干した
 君の気遣いがすごく嬉しかった


 ブランケットにくるまりながら二人並んで星を見て
 こんな優しい時間があるんだなと
じんわりと心が温かくなった



 睡魔が訪れる前に車に乗り、帰路につくと
 すでに睡魔は君に降りてきて
 こくりこくりと船を漕ぐ君の寝顔を横目に
 先ほどの言葉を思い出す

 ―長い付き合いだもの―

本当、かなわないなぁ」
ポツリとつぶやき苦笑する

 僕は(そろそろ指輪を用意しないとな)と思いながら
 君が隣にいる幸せを噛みしめていた







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Ivy

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